日本語を学ぶ
【差替待機】フランダースのイヌ④
お話を聞いてみましょう。
- 4分0秒
お腹がペコペコのネルロには、もう歩く元気もありませんが、最後の力を振り絞ってアントワープの教会のルーベンスの絵の前へ行きました。
冷たい床に座り込んだネルロは、ふと、肩にあたたかい息(いき)を感じて振り向きました。
「パトラッシュ! 追いかけてきたのかい」
ネルロは、パトラッシュの首を抱きしめました。
「ありがとう、パトラッシュ。ぼくたちは、ずっと一緒だね。
ごめんよ、置いて行ったりして。パトラッシュ、もう離れるのはやめようね」
すると月明かりが教会にさしこみ、あたりが明るくなりました。
雪がやんで、月がかがやき出したのです。
「あっ!」
ネルロは、思わずさけびました。
ルーベンスの絵が、見えるのです。
さっきパトラッシュが暗やみの中で、布を引っかけて落としたからでした。
ルーベンスの絵は、キリストの絵でした。
「ああ、なんて素晴らしいんだろう!」
ネルロは嬉しくて嬉しくて、涙をポロポロとこぼし、パトラッシュの首を温かく濡らしました。
「パトラッシュ、ぼくはもう疲れたよ。少し眠ってもいいかい?」
ネルロとパトラッシュは、しっかりと抱きあったまま目を閉じました。
あくる朝、牧師(ぼくし)さまがネルロとパトラッシュを見つけました。
ネルロとパトラッシュは抱きあったまま冷たくなっており、二度と目を開く事はありませんでした。
そこへアロアとお父さんとお母さん、それに三人の大人が駆け込んで来ました。
アロアはネルロにかけよると、ワーッと泣き出しました。
「ネルロ、お父さまが、ネルロの事を分かってくださったのよ。今日から、一緒に暮らせるのに。…どうして、どうして天国へ行ってしまったの」
三人の大人たちは、子どもの絵の展覧会で審査員(しんさいん)をした人たちでした。
審査員たちは、ネルロに涙を流して謝ります。
「気の毒な事をしてしまった。ネルロの絵は受付の手違いで、他の場所に置かれていたんだ」「とてもすばらしい、木こりの絵だったよ。われわれは、もう一度審査をやり直したんだ。そしてきみの絵が、一等に選ばれたんだよ」
天国へ召されたネルロとパトラッシュは、その言葉を聞いているかのように優しくほほ笑んでいました。