日本語を学ぶ

身投げ石

はなしいてみましょう。

身投げ石
  • 5分0秒
  • 0361100716

むかしむかし、大分県に、岡の殿(おかのとの)という男が住んでいました。


岡の殿には大変美しい姫がいましたが、姫は重い病にかかってしまったのです。


どんな薬をあたえても、姫の病気には効かず、姫の病気は、日に日に悪くなるばかりでした。


そんな、ある日の事。


どこからか一人のお坊さんがやって来て、岡の殿に言いました。 


「黒いユリの花の根を薬にして飲ますと、どんな病気も治るとききます。」


それをきいた岡の殿は、あちこちにおふれを出しました。


《黒いユリの花を探し出した者には、姫を嫁にとらす。すぐに早く探し出せ》


それを読んだ人々は、山も川も海も、草の根を分けるようにして探しましたが、


けれども、黒いユリを見つけることは出来ませんでした。


屋敷の人々があきらめかけたとき、岡の殿がかわいがっていたウマが、


激しくいなないて屋敷にかけ込んできたのです。


そのウマの口には、なんと黒いユリの花が一本くわえられています。


岡の殿は夢中で栗毛にまたがると、栗毛は矢のようにかけ出しました。


栗毛は、深い谷まで走ると、そこの岩間には、黒いユリの花が何本も咲いていたのです。


それから、ユリの薬を飲んだ姫は、元気になっていきました。


さて、黒いユリを見つけてきた人には、姫を嫁にやるという約束でしたが、


相手がウマではどうしようもありません。


ところが、あの栗毛はその約束を知っているのか、


いつも姫に寄りそっていて、姫の側を離れようとしないのです。


岡の殿も姫も気味悪くなり、栗毛をウマ小屋に閉じ込めてしまいました。


ある日、姫は病気全快のお礼参りに、神社に向かいました。


ところが、カゴにのって帰る途中、ウマ小屋から逃げだした栗毛が、


狂ったように姫の行列めがけて走ってきたのです。


お供の者たちが姫を守ろうとしましたが、栗毛はお供の者たちをけちらし、


とうとう姫を、川に突き出た大きな岩の上に追いつめてしまったのです。


岩の下では川が、ゴウゴウ音をたてて流れています。


栗毛の目は怒りに燃えており、姫に一歩一歩近づいていきます。 


「いやじゃあ!」


姫は叫び声をあげましたが、栗毛は姫を道連れに、川へ身を投げたのです。


いつのころからか、身投げ石と呼ばれるようになったその大岩は、


栗毛のひづめのあとを今も残しているという事です。