日本語を学ぶ
【差替待機】しあわせの王子②
お話を聞いてみましょう。
- 5分0秒
そして王子に、お別れを言いました。
「王子さま。これからぼくは、仲間のいるエジプトに行きます。エジプトはとても暖かくて、お日さまがいっぱいなんです」
けれど王子は、また頼みました。
「どうか、もう一晩だけいておくれ。あそこで、マッチ売りの女の子が泣いているんだ。お金を稼がないとお父さんにぶたれるのに、マッチを全部落としてしまったんだ。だから残ったサファイアを、女の子にあげてほしいんだ」
「それでは、王子さまの目が見えなくなってしまいますよ」
「いいんだ。あの子が幸せになれるのなら、目が見えなくとも」
「王子さま・・・」
人の幸せのために自分の目を無くした王子を見て、ツバメは決心しました。
「王子さま、ぼくはもう旅に出ません。ずっと、おそばにいます。そして、王子さまの目の代わりをします」
「ツバメくん。ありがとう」
それからツバメは町中を飛び回り、貧しい人たちの暮らしを見ては王子に話して聞かせました。
「それでは、ぼくの体についている金を全部はがして、貧しい人たちに分けてくれないか」
「わかりました」
ツバメは言いつけ通り王子の体から金ぱくを剥がすと、貧しい人たちに届けてやりました。
やがて、空から雪がまい落ちてきました。
とうとう、冬がきたのです。
寒さに弱いツバメは、凍えて動けなくなりました。
「ぼくは、もうだめです。王子さま、さようなら。良い事をして、ぼくは幸せでした」
ツバメは最後の力で王子にキスをすると、そのまま力尽きて死んでしまいました。
パチン!
その時、王子の心臓(しんぞう)が悲しみに耐えかねて、はじけてしまいました。
次の朝、町の人たちはしあわせの王子の像が、すっかり汚くなっているのに気づきました。
「美しくない王子なんか、溶かしてしまおう」
ところが不思議な事に、王子の心臓だけはどんなにしても溶けませんでした。
そこで王子の心臓は、そばで死んでいたツバメと一緒に捨てられました。
そのころ、神さまと天使(てんし)がこの町へやってきました。
「天使よ。この町で一番美しい物を持っておいで」
神さまに言いつけられて天使が持ってきたのは、王子の心臓とツバメでした。
それを見て、神さまは頷きました。
「よくやった。これこそが、この町で一番美しい物だ。王子とツバメは、大変良い事をした。この二人は、天国に連れて帰ってやろう」
こうして人々を助けるために死んだ王子とツバメは、天国で幸せに暮したのです。