日本語を学ぶ

おいてけぼり

はなしいてみましょう。

おいてけぼり
  • 5分0秒
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むかしむかし、あるところに大きな池がありました。


水草がしげっていて、コイやフナがたくさんいました。


でも、どういうわけかその池で、釣りをする人はひとりもいません。


それはあるとき、ここでたくさんフナを釣った親子がいたのですが、重たいビクを持って帰ろうとすると、突然、池にガバガバと波がたって、


「おいていけー!」


世にも恐ろしい声がわいて出ました。


「おいていけー!」


おどろいた親子は、さおもビクも放り出して逃げ帰りました。


そして長い間、寝こんでしまったのです。


それからというもの、恐ろしくて、だれも釣りにはいかないというのです。


うわさを聞いた、三座衛門という人がやってきました。


なんぼおいていけって言っても、絶対に魚を持ってくると、大いばりです。


三ざえもんは池にやってくると、釣りをはじめました。


初めは一匹も釣れませんでしたが、ゴーン、ゴーン。


夕暮れの鐘が鳴ると、とたんに釣れて、釣れて、釣れて、ビクはたちまち魚でいっぱいです。


機嫌がよくなった三ざえもんが帰ろうとすると、池に波がガバガバガバ。


「置いていけー!」恐ろしい声が聞こえました。


誰が置いていくものかと、三ざえもんは、肩をゆすって歩きだしました。


ところが、しばらくすると、後ろから誰かついてくるのです。


見ると、それは綺麗な姉様です。


姉さまは、三ざえもんに追いつくといいました。


姉さまは三ざえもんに「その魚を売ってくれないか」と言いました。


姉さまは「そこをなんとか」と、お互いに譲りません。


そうこうしていると、突然、姉さまはかぶっていた着物を、バッと脱ぎ捨てて言いました。


「置いていけー!」


姉さまの顔を見た三ざえもんは、ビックリしました。


姉さまの顔は目も鼻もない、口ばかりの、のっペらぼうだったのです。


三ざえもんは、驚きましたが、「それもさかなは置いとかん!」と譲りませんでした。


さすがは、豪傑の三ざえもんです。


家に帰り、「しっかり魚を持って帰ってきたぞ」と、三ざえもんは得意になっておかみさんにいいました。


するとおかみさんが「怖いものをみなかったか」と三ざえもんに聞きました。


三ざえもんは、のっぺらぼうの事を話そうとしたら、おかみさんが、振り向いて、そして、ツルリと顔をなでると、


「もしかしたら、これかい?」と言いました。


とたんに、見慣れたおかみさんの顔は、目も鼻もない、口ばかりののっペらぼうになりました。


「置いていけー!」


さすがの三ざえもんも、気絶(きぜつ)してしまいました。


やがて、目をあけた三ざえもんは、しばらくなにがなんだかわからず、キョロキョロとあたりを見回しました。


たしかに家へ帰ったはずなのに、そこはさびしい山の中で、魚も竿も、全部消えていたのです。