日本語を学ぶ
おいてけぼり
お話を聞いてみましょう。
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むかしむかし、あるところに大きな池がありました。
水草がしげっていて、コイやフナがたくさんいました。
でも、どういうわけかその池で、釣りをする人はひとりもいません。
それはあるとき、ここでたくさんフナを釣った親子がいたのですが、重たいビクを持って帰ろうとすると、突然、池にガバガバと波がたって、
「おいていけー!」
世にも恐ろしい声がわいて出ました。
「おいていけー!」
おどろいた親子は、さおもビクも放り出して逃げ帰りました。
そして長い間、寝こんでしまったのです。
それからというもの、恐ろしくて、だれも釣りにはいかないというのです。
うわさを聞いた、三座衛門という人がやってきました。
なんぼおいていけって言っても、絶対に魚を持ってくると、大いばりです。
三ざえもんは池にやってくると、釣りをはじめました。
初めは一匹も釣れませんでしたが、ゴーン、ゴーン。
夕暮れの鐘が鳴ると、とたんに釣れて、釣れて、釣れて、ビクはたちまち魚でいっぱいです。
機嫌がよくなった三ざえもんが帰ろうとすると、池に波がガバガバガバ。
「置いていけー!」恐ろしい声が聞こえました。
誰が置いていくものかと、三ざえもんは、肩をゆすって歩きだしました。
ところが、しばらくすると、後ろから誰かついてくるのです。
見ると、それは綺麗な姉様です。
姉さまは、三ざえもんに追いつくといいました。
姉さまは三ざえもんに「その魚を売ってくれないか」と言いました。
姉さまは「そこをなんとか」と、お互いに譲りません。
そうこうしていると、突然、姉さまはかぶっていた着物を、バッと脱ぎ捨てて言いました。
「置いていけー!」
姉さまの顔を見た三ざえもんは、ビックリしました。
姉さまの顔は目も鼻もない、口ばかりの、のっペらぼうだったのです。
三ざえもんは、驚きましたが、「それもさかなは置いとかん!」と譲りませんでした。
さすがは、豪傑の三ざえもんです。
家に帰り、「しっかり魚を持って帰ってきたぞ」と、三ざえもんは得意になっておかみさんにいいました。
するとおかみさんが「怖いものをみなかったか」と三ざえもんに聞きました。
三ざえもんは、のっぺらぼうの事を話そうとしたら、おかみさんが、振り向いて、そして、ツルリと顔をなでると、
「もしかしたら、これかい?」と言いました。
とたんに、見慣れたおかみさんの顔は、目も鼻もない、口ばかりののっペらぼうになりました。
「置いていけー!」
さすがの三ざえもんも、気絶(きぜつ)してしまいました。
やがて、目をあけた三ざえもんは、しばらくなにがなんだかわからず、キョロキョロとあたりを見回しました。
たしかに家へ帰ったはずなのに、そこはさびしい山の中で、魚も竿も、全部消えていたのです。